Leader's Voice
ゲームチェンジャー
AIが登場して以降、淘汰される業種のひとつとされてきたコンタクトセンターだが、生成AI元年と言われる2023年を迎えた今、市場規模に大きな変化は見られない。一方で、生成AIの主要ベンダーは、学習データとしてコンタクトセンターに蓄積される膨大な対話データ(VoC)に注目しており、コンタクトセンターがキープレイヤーとなる可能性も出てきた。生成AIを脅威と見做すか、イノベーションをもたらす強力な武器と考えるか、ベルシステム24の答えとは?
東京工業大学大学院で原子核工学を専攻後、米国大手コンサルティング会社などを経て、ベルシステム24ホールディングス入社。CIO・CTOとして情報システム部門を管掌するとともに、先端科学技術リサーチ部門の責任者として様々なパートナーとのアライアンスにより、生成AIなど先端技術を活用した新しいビジネスモデルを推進。現在はCSO、CCO、CPO、CISO、CROも兼任する。
2004年入社。コンタクトセンターのオペレーションマネジメントに従事した後、事業企画部門で国内外の幅広い企業とのアライアンスや新規事業のコラボレーションを経験。2023年よりコンタクトセンターのDXを推進するデジタルCX本部で事業戦略部を率いる傍ら、生成AIのプロジェクトのプロジェクトリーダーとして全社のAI戦略を牽引。
2001年ベルシステム24入社、移動体通信事業者のコンタクトセンターでオペレーションマネジメントに従事。その後、情報システム部門に異動しPBX運用/システム開発/センター構築を経験。2018年より現部署の前身となるプロジェクトに参画し、2020年にイノベーション&コミュニケーションサイエンス研究所設立時に着任。2023年よりグループマネージャー(現職)としてプロジェクトを牽引する。
生成AIが登場する前から、コンタクトセンター業界はAIに乗っ取られると言われてきましたが、実際にはそのようにはなってはいません。AIはある領域ですでに人間を超えている一方で、まだ人間の方が優れている領域も多く、 敵(脅威)と捉えるか味方(武器)と捉えるかは我々次第です。知性を生み出す主体が、人間だけから、生成AIへと拡張していくなか、AIを恐れるのではなく、むしろ強力な武器として積極活用してAIとの共創・協調を模索するべきです。当社は"イノベーションとコミュニケーションで社会の豊かさを支える"をパーパスとして掲げていますが、より効果的にこの理念を実現できるのであれば、人間が主役であることにこだわらず、生成AIの効果・成果を最大化するために人間がサポート役に回る、主従逆転のアプローチもありだと思います。生成AIの登場によって、今まさに当社は"イノベーションのジレンマ"に直面しているわけですが、先程のパーパス実現に向けた5つの重要課題(人材と働き方の多様性、人材のパフォーマンス向上、リスクマネジメントの高度化、ビジネスモデルの変革、地域社会への参画)を達成するには、ジレンマを乗り越えてピンチをチャンスに変える必要があります。特に人材のパフォーマンスや多様性において、AIがブレイクスルーをもたらす可能性があると考えており、当社としても注目しています。
現在、3つのアプローチで生成AI活用を進めています。1つ目は、リサーチ部門内に設けた「先端テクノロジー研究グループ(以下、先端研)」による、コンタクトセンターの現場における"持続的なイノベーション"の取り組みです。先端技術を活用したアプリケーションを開発し、オペレーションの現場に投入することで、業務変革による生産性向上を目指す内部向けプロジェクトになります。2つ目は、生成AIを活用したソリューションを外販する組織が運営する「生成AI Co-Creation Lab.(以下、Co-Creation Lab.)」です。大規模な生成AIモデルを提供するGoogle、Microsoft、AWSといったビッグテックとアライアンスを組み、クライアント企業も巻き込んで3者の協働により、生成AIのユースケースを共創する外部向けプロジェクトです。2~3年のスパンでクライアントの成果期待に応え収益を上げるビジネスモデルを目指しています。3つ目が、株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下、ソニーCSL)との共同研究プロジェクト「イノベーション&コミュニケーションサイエンスラボ(以下、ICS Lab.)」です。こちらは、我々の業態を駆逐してしまうような技術を他社に先駆け創り出し、コンタクトセンターの新しいモデルを打ち立てる"破壊的イノベーション"を目指しています。短期間で成果を積み上げて継続する先端研、ユースケース共創を事業化するCo-Creation Lab.、生成AIの視点でコンタクトセンターを再構築するICS Lab.、登山に例えれば3つのルートで登頂を目指す戦略です。
株式会社ベルシステム24 常務執行役員 CIO/CTO/CSO/CCO/CPO/CISO/CRO 景山 紳介
本社の社員には、業務ツールに生成AIサービスを組み込んで提供しており、アイデア出しなどで活用しています。また、ICS Lab.では4万人近いコミュニケーター向けのツールも開発中で、生産性向上に向けて生成AIの社内活用を加速していきます。もう1つ成果事例として紹介したいのが、スキル不足などでこれまでコミュニケーター採用に至らなかった人材を対象に、足りないスキルを補う研修を行うことで採用につなげるプレ・トレーニングセンター「SUDAchi」の取り組みです。生成AIを活用した顧客電話対応のロールプレイングツール(Webアプリ)を開発し、自宅で好きな時にロールプレイング研修ができるようにしました。「SUDAchi」自体、インクルーシブなアプローチでコミュニケーター採用の間口を拡げる取り組みですが、より柔軟に、そして気軽にスキルアップできるようになったと思います。当社に対する社外の評価や認識も大きく変わりました。サステナブル経営に関する評価会社の格付けで適用される当社のインダストリー区分が、これまでのカスタマーサービスからプロフェッショナルサービスに変わりました。ブランディングの効果もあるとは思いますが、AI活用を含む新たな取り組みによって、単なるコンタクトセンターの会社ではなく、コンサルティング能力を有するBPOカンパニーとして認識されつつあるようです。
慢性的に人材確保に苦労しているコンタクトセンターですが、今後の人口減少を考えるとその傾向はさらに強まると思います。生成AIなど新しい技術の助けを借りて、1人が2人分、3人分の仕事ができるようになれば、人材難にも対処できるようになります。コミュニケーターの負担が軽減し、より働きやすくやりがいのある環境を実現して、応募を増やす可能性すらあります。先進的な取り組みに魅力を感じ入社を決めた求職者も出てきており、そのような社員が今後増えてくるでしょう。先端技術を積極的に取り込みつつ、人間は人間にしかできないことに集中する"真のデジタルBPO"を目指したいと思います。
株式会社ベルシステム24 デジタルCX本部 事業戦略部長 渡辺 聡
生成AI元年と言われる2023年以降、当社においても、クライアントや投資家から「何がどこまでできるのか」などお問い合わせやご相談をいただく機会が増えました。こうした声に応える形で、同年6月、社内に「ジェネレーティブAI検証プロジェクト」を立ち上げ、日本マイクロソフトやGoogle Cloudと協同で「生成AIで何がどこまでできるのか」の実証実験を開始しました。匿名化されたVoCデータを活用して、対話データの要約やFAQ作成、VoC発掘などの検証を進め同年10月に結果や成果を発表したところ、大きな反響を呼び約70社からお問い合わせいただきました。得られた成果を元に、生成AIと人間によるハイブリッド型コンタクトセンターの構築を目指し、2024年6月、事業化に向けて開始したのが「Co-Creation Lab.」です。
生成AIベンダーについては、日本マイクロソフト/Google CloudのほかにAWSを追加しており、今後は、日本語モデルの開発を進める国内ベンダーも加え、業務やニーズに最適な生成AIを比較検証して選べるようにする計画です。ラボにはこのほか、SIerのCTCやデータマーケティングや自然言語処理を専門とするシンカー、ベクストなどの企業も参画しており、"業務知見に基づく正解"を知っているベルシステム24が全体のハブとなる形で、各社の技術/ノウハウ/ソリューションを活用し、1社だけでは難しいコンタクトセンターへの生成AI導入を伴走型で支援します。参加クライアントのニーズに対応するPull型アプローチよりも、ラボに参加する全員の知見を最大限に活かしたPush型アプローチを重視し、真のイノベーションを追求している点も特長と言えます。
「生成AI Co-Creation Lab.」の概要
株式会社ベルシステム24 イノベーション&コミュニケーションサイエンス研究所 グループマネージャー 永田 正明
発端は、2016年に某大手家電メーカーとの協業でスタートした"カスタマーサービスに特化したナレッジ検索型AI"の共同研究になります。メールなどの長文から最適なFAQを探し出す技術の実用化を目指すなか、Sony CSLから研究員のミカエル・シュプランガー氏(現ICS Lab.共同研究所長)を紹介され、メンバーに加わってもらいました。当時、利用していた検索エンジンの精度に課題を抱え、研究が行き詰まっていたのですが、海外出張帰りの機中でシュプランガー氏が開発したアルゴリズムが既存エンジンの精度を凌駕し、その高い技術に驚かされました。その後、"人とAIが共存する未来像"を掲げ、ベルシステム24ホールディングス内にICS Lab.を設立したのが2020年4月で、現在Sony CSLから複数のエンジニアが出向しています。
シュプランガー氏が開発した検索エンジンをベースにコンタクトセンターの運用に適したアプリケーションの開発が続けられ、その後AI検索エンジン「Mopas」として正式にリリースしました。ユーザーの自己解決率を高めることで呼量を大幅に削減するとともに、コミュニケーターのパフォーマンス向上に効果を発揮しています。また、生成AIを活用した自動ロールプレイングツールの開発も行い、プレ・トレーニングセンター「SUDAchi」で既に本格導入されています。このほか、完全自動応答のコンタクトセンターとの類似技術を活用し、「AI王~クイズAI日本一決定戦~」というコンペティションに第1回大会から参加し続けており、ついに2023年度開催の第4回大会で優勝を果たしています。ソニーCSLと共同での技術開発を通して、今後もICS Lab.立ち上げ時に掲げた「Cybernetic Contact Center」のビジョン実現を目指す計画です。
ICS Lab.のR&Dテーマ
人的資本から知的資本を生み出す仕組み(ノウハウ)を最大の強みとするベルシステム24。これまで知的資本を生み出す主体は人間だけだったが、そこに生成AIが加わることで、知的資本の創出を加速して社会貢献につながるとすれば、これを活用しない理由はない。3つの生成AI活用プロジェクトを並行して推進し、3~5年後を目処に新しいコンタクトセンターの青写真を描く計画だ。
社員一人ひとりが「その声に、どうこたえるか。」を胸に、課題に挑むプロジェクトストーリー
ChatGPTなどの先進技術を積極的に活用し、生産性と人の働き方の本質的な変革が始まる
究極の顧客体験を創るデータマーケティング事業を目指し、ベルシステム24×シンカーの提携が実現
コロナ禍や不確実な国際情勢を受け、国内企業の多くが会社のあり方を見直すなか、自社だけでなくパートナーのリソースも活用してより強固で柔軟な体制づくりを加速しようとする企業が増えています。活性化するBPO市場において、中期経営計画で「NEW BPO」を掲げ事業の多角化を進めるベルシステム24では、資本提携や業務提携などアライアンスを積極的に進めています。その狙いやここまでの成果、今後のビジョンについて聞きました。
対応する人によらない再現性を担保する……コンタクトセンター運営のリーディングカンパニーとして長年磨き上げてきたのが業務の「型化」です。ベルシステム24のDNAとも言える型化のメソッドは、それ自体が価値となる大きな可能性を秘めていました。型化メソッドをどうサービスへと展開し、価値につなげるのか、先頭に立って取り組みを進める2人のインタビューをお届けします。
コンタクトセンター受託を主力とし、グローバルで4万人超の従業員を抱えるベルシステム24。データドリブンでセンター業務を変革し総合BPOパートナーを目指す同社の取り組みについて、現状や見えてきた未来、顧客に提供し得る新しい価値など、DXを牽引する3人が語ります。
社会の急速な変化を受け、日々変わっていくクライアントのニーズにどう対応するか ――― ベルシステム24が出した答えは、営業とオペレーションが分離していた“製販分離組織”を“製販一体組織”に変え、各クライアントの責任者を「アカウントオーナー」とする制度でした。アカウントオーナーが目指す理想とあわせ、実際のクライアントとの関わり方、さらに制度にあわせた人材育成まで詳しく聞きました。
定型業務でも属人化が進み、業務改革や人材の流動化が進まない傾向にある経理・人事領域。コンタクトセンター以外の事業で多角化を図るベルシステム24は、経理・人事領域を得意とする株式会社レイヤーズ・コンサルティング(以下、レイヤーズ)と資本提携。2022年3月にHorizon Oneを設立し、経理・人事BPO市場に参入しました。Horizon One設立の経緯や目的、ここまでの取り組みの成果や今後のビジョンなどについて聞きました。
これまでのカスタマーサポート型コンタクトセンター市場の成熟化を背景に、VOCセントリックのデータマーケティング事業で、コンタクトセンターからマーケティングセンターへの進化を遂げるベルシステム24。既に専門企業がひしめく市場で勝算はあるのか?"蕎麦屋のカレー"が意図するデータマーケティングの形とは?
2023年9月に養豚経営支援システム「Porker」を手がける株式会社Eco-Porkと資本業務提携、さらに2024年4月にはNTTテクノクロス株式会社との共同サービスとして牛の起立困難予防声かけAIサービス「BUJIDAS(ブジダス)」を提供開始し、一次産業への取り組みを推進するベルシステム24。既存のBPO業務で培ったノウハウは業界が抱える課題を解決へと導く起爆剤になる……その背景にある熱い想いについてプロジェクトを率いる2名に話を聞きました。
“デジタル田園都市国家構想”の実現に向けて年間1,000億円規模の交付金が予算化され、全国の自治体でDXの取り組みが一斉に進むなか、自治体向けシステムで実績豊富な株式会社Blueship(以下Blueship)とタッグを組み、自治体BPO事業の拡大を目指すベルシステム24。民間にはない公共ならではの要件や、対応するうえでの工夫や苦労、社内で「藤沢モデル」と呼ぶ成功事例の詳細などについて聞きました。